INTERVIEW

かりぃーぷぁくぷぁくの これからのカレーの話をしよう

第3回 渋谷系とスパイスカレーへの熱狂は似ている!?

某アーティストと同じリズムのアーティスト名、“アイドルなの?”と思って曲を聴いたらどうやら男性。しかも、2ndシングル「パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ」は渋谷系の有名なあの曲とあの曲を思い出させる…。何が何だか分からないあなたに送る、かりぃーぷぁくぷぁく解説編。

※2022年に取材を受けた、OKMusicの記事より転載。聴き手:石角友香さん。

あのマニアックな熱狂は今、どこにあるのか?

石角

音楽活動そのものは以前からやってらっしゃったんですか?

かりぃー

はい。中学2年の頃からバンドをやっています。メンバーから色々と面白い音楽を聴かせてもらったりして“こんなのがいいね”と話して歌ったり弾いたり…みたいなことを中学生の時はずっとやっていました。そのバンドは”ししゃも”っていうんですけど、今でもたまに活動していて、 2019年に結成25周年ライヴをやったんですね。で、何かしらちゃんとコンセプトのあることをやりたいと思って、その時にあんまり素のまま出ちゃうのも面白くないなと。すでに自分がおじさんであることをあんまり受け入れたくない気持ちがあって、自分では“おじさん性同一性障害”と言っているんですけども、おじさんから離れたことをやってみようということで、こういう格好で出てみたのがきっかけです。で、当時からカレーにハマっていたからカレーの歌を歌うってことをライヴでやりたくて、そのししゃものライヴで初めて披露してみて、その時にかりぃーぷぁくぷぁくが誕生しました。

石角

キャラクターで押しているように見られがちなのでは?

かりぃー

“自分が一番やりたいことは何なのか?”ということなんですが、カレーが好きだということと、音楽やっているということに自分の中で整合性を保ちたいと思っていて。やり始めてから気がついたことなんですけれど、“渋谷系とカレーは似ている”っていうことをどうしても伝えたいなと。自分が20歳ぐらいの時は、渋谷系だという意識はなかったんですけど、よくよく振り返ってみて中学生の頃に聴いていた音楽が渋谷系だったんだなと。当時の音楽ファンは結構な熱量を持ってレコード屋さんに行っていて、ああいうマニアックな熱狂が今はどこにあるのかと考えたら、カレー屋さんなんじゃないかと。“エリックサウス”というお店はご存知ですか? そこの稲田俊輔さんという総料理長の方がおっしゃってたんですけれども、ラーメンとカレーという二大国民人気食があると。で、ラーメンを作ろうと志している人はあんまり中国大陸の麺料理のほうを向かないんだと

石角

あくまでも日本のラーメンですよね。

かりぃー

そう。心に描くのはジャパニーズ中華そば。醤油のあれが至高のものであって、そこをみんな目指そうとする。それに対してカレーはいわゆるじゃがいもと人参とでトロッとしたボンカレーが代表的なものとして描かれるけど、カレーを作ろうと志している人は、そっちを目指さないよねって。だから、向きが逆で、ラーメンは国内志向だけれどもカレーはかなり海外志向

石角

本場に行こうとしますね。

かりぃー

そうそう。本場に行こうとするんですよ。海の向こうに目が向いている感じっていうのが洋楽志向の渋谷系のミュージシャンの目線に似ていると思っていて。例えばスウェーデンに実際に行っちゃう人とかいたじゃないですか。あの感覚でスリランカに行っちゃったり。作り手もそうだし、ファンの掘り方も“あのカレーはどこの国のどのスパイスがどんな感じで…”みたいに掘り下げようとする。そのマニアックな熱狂具合、作り手も受け手も織り混ざっている感覚を考えると、“渋谷系とカレーは似ている”って意外と間違ったことを言っていないんじゃないかと思っているんです。でも、それを言うだけではちょっと伝わりつらいので、自分もその一端として体現してみることはできないかなと思ったんですね。なので、今回の「パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ」は分かりやすくフリッパーズ・ギターとPIZZICATO FIVEを意識したということを、この場で言いたいと思って(笑)

石角

なるほど。デビュー曲の「マリー・アン・ドゥ・トロワ・ネット」はラップ的な押韻がユニークで、比較的テクノ的でしたが、それもいわば渋谷系に含まれますし。

かりぃー

振り幅も大きいと思うんですよ。ジャンルじゃなくてムーブメントだから、電気グルーヴ的なグループもいたし、それが引き継がれてきゃりーぱみゅぱみゅまで辿り着いていると思うので、そっちも意識するし…っていうところを最初に見せたかったんですよね。本当にやりたいことは“広い世界観で、広いフィールドで”と考えていたので、今後の3曲目、4曲目も話が動いてはいるんですけれども、なるべく幅のあることをやれたらいいなという気持ちではいます

石角

90年代の渋谷はタワーレコードもHMVもすごい活況を呈していて、もっとコアなところだと宇田川町のレコード店とかに行くとさらに面白いものがたくさんあるっていう。いろんな音楽が出てきた頃の感じですね。

かりぃー

そうですね。なので、「パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ」のミュージックビデオは今の渋谷を舞台にしながらも、歌っていることが90年代の渋谷なんです。《世紀末まで喋っていようよ》と歌っているのも、やっぱそこ思わせたいんですよね

石角

確かに2001年があると思っていなかったですもんね。

かりぃー

そう。ディストピア感、絶望感がちょっと近いような気もします

石角

別に地球が滅亡をするとは半分以上思っていないんですけど、“滅亡するんだったらもっと面白いことやっちゃえ!”みたいな…この話、若い人に分かりますかね?(笑)

かりぃー

あははは。でも、無視しちゃいけないけど、本当に伝えたい人たちはやっぱりその世代の人かもしれないですね。そこに刺さるものであってほしいと思うから、あんまりそこはひよっちゃいけないと思います

石角

それでいて、“かりぃーぷぁくぷぁく”というアーティストネームは、きゃりーぱみゅぱみを想像させるので非常に意識的だと思うわけです。

かりぃー

きゃりーぱみゅぱみゅさんは渋谷系の系譜を引き継いでる方だと思うんです。中田ヤスタカさんがやっているCapsuleってネオ渋谷系と呼ばれていたフューチャーポップというか…でも、あれもPIZZICATO FIVEの存在を意識しながら、独自に切り開いていったものだと思うので、もしかしたらその進化の仕方もカレーになぞらえられるのかなと思っています。“きゃりーと渋谷系は関係ないだろう”と言われちゃうかもしれないと思っている部分はあるんですが、よくよく考えたら一緒だよねっていう。そこまで視野を持てば若い子たちも“きゃりーのルーツって?”とより興味を持って面白さを感じてくれるんじゃないかなという気持ちもあったりね

一番カレーが食べたかった時はいつだったのか?

石角

今回の「パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ」はリファレンスとして、PIZZICATO FIVEの「東京は夜7時」とフリッパーズ・ギターの「恋とマシンガン」が明確に感じられる抜群のマッシュアップですね。

かりぃー

ありがとうございます

石角

これはもうスパイスカレーブームは渋谷系だと言っている限り、やはりそれを代表するような楽曲をということですか?

かりぃー

思い入れとしてはそうです。これがやりたくて、改めて5月にアーティストとして世に出ようと思いました。だから、もちろん1曲目も大事ですけど、一番伝えたいことをこの曲に込めていて、当時の熱狂というか“こういうのあったよね”という気持ちをみなさんと共有したいなと

石角

そういった想いがありつつ、歌詞の内容はコロナ禍真っただ中じゃないですか。これもまたすごいリアルでした。やっぱりここ数年は寂しかったですよね。

かりぃー

寂しかったですし、一番カレーが食べたかった時はいつだったかと思うと、やっぱりコロナ禍真っただ中の時なんですよ。一年前の20時過ぎって本当にお店がどこも開いていなくて、自分は神戸に住んでいるので、せっかく東京まで来たのに20時を過ぎちゃってどこにも入れなくて、“コンビニでご飯を買っている自分なんなんだろう?”と思ったので。カレーを食べたい気持ちが一番表せるシチュエーションを選んだらそうなりました

石角

しかも名店の名前を語る部分がエレガントですね。

かりぃー

本当ですか? いや、その店の名前自体がすごい素敵なんだと思いますけど。でも、どうしても食べたいと思ったお店を並べるようにはしていますね

石角

聴いていると無性に食べたくなります。

かりぃー

今日も2軒行ってきました(笑)。今日はフラヌールとムルギーに行ってきて、昨日の夜はナタラジで食べたんですけど

石角

で、今はかりぃーさんが“渋谷系”と言われていた音楽の中の、キャッチーというか美しい部分を援用してアレンジしてらっしゃる。知識がなかったら作れなかった音楽ですもんね。

かりぃー

でも、作曲自体は一世代下の子にやってもらいました。だから、そこを勉強してもらったり、私からも伝えながら“こういう感じのものがいいと言われてたんだけど、分かるかな?”とすり合わせながらやっていったので、非常にいいかたちに仕上げてもらったと思うんですけど

石角

では、渋谷系ど真ん中ではない世代の方のフィルターを通ってるんですね。確かにリアルタイムで聴いていた人がやるとまたちょっと変わってくるのかもしれない。

かりぃー

“これは違う!”とかいう話が始まっちゃうとちょっと面倒くさいと思うけど(笑)

石角

ポップスとして成立するところに着地していて聴きやすかったです。

かりぃー

ありがとうございます。この曲はジャンルで言ったら、たぶんジャズだと思うんですよ。だからと言って“ジャズをやっている”と言うとね、なんかよく分からない感じになるけど、渋谷系だとなんとなく腑に落ちちゃうのって不思議な現象ですよね

石角

逆に言うと、それだけリファレンスの2曲が初めて聴いた人にとってはいわゆるジャズ的なものだったってことかもしれません。そうやって伝承されていくというか。

かりぃー

そうですね。生き証人みたいな人たちがね、どんどん伝えていかないとなくなってしまうものなので、伝言ゲームみたいなかたちで違うものに変化しながら。たぶんカレーもそうだと思うんですけどね

石角

この楽曲自体は最終的にお腹空くんですけど(笑)、MVはすごい切なくてですね。

かりぃー

やった!(笑)

石角

オール渋谷ロケの感じがなかなか切なかったです。

かりぃー

そう言っていただけるとすごい伝わったんだなと、めちゃめちゃやった甲斐があります。スクランブル交差点のシーンは一発撮りなんですよ。だから、本当に“今しかない!”って(笑)、そしたらモーセのように人が開いたという。渋谷でロケと言ってもウェイウェイ!している渋谷のイメージにはしたくなくて。疎外感が大事にしたい部分だったんですよね。《つめたい夜のひかり》と歌詞にありますけど、工事の音がガンガン鳴って、“誰が住むんだよ?”“誰が働くんだよ?”みたいなものがどんどん建っていって、自分らの好きな渋谷じゃない渋谷がどんどん出来上がっているじゃないですか。やっぱりそれがお腹が空いていることに加えてキツかったなと

石角

分かります。もう以前の面影はないですからね。

かりぃー

楽しい部分も全否定はしていないんですけど、やっぱりちょっと恐ろしかったです、音が

石角

ところで、かりぃーさんのお衣装は何をイメージしているんですか?

かりぃー

今回に関してはピチカートを彷彿させるスタイルにしたかったので、タイトにシュッとさせてほしいと要望を伝えて作ってもらいました。ただ、これに関してはこのバッグがありきだったので、この子が主役で自分は背景なんです。これも言っとかなきゃいけないんですが、かりぃーぷぁくぷぁくはよくアイドル活動って言われるんですけど、自分にとってのアイドルはカレーなので自分は推し活をしているんだなと

石角

カレーの推し活なんですね(笑)。

かりぃー

だから、たくさんカレーに囲まれている1作目の「マリー・アン・ドゥ・トロワ・ネット」の衣装も、推しに囲まれる高揚感っていうものを体験したいというところで、やってもらいました。だって、あらゆるジャンルでもし本当に好きなものが四方八方にあったらみんな狂喜しませんか?(笑)

石角

間違いないです(笑)。