INTERVIEW
第2回 かりい食堂
わたくしかりぃーぷぁくぷぁくがカレーに関わる人々にお話を伺う
ロングインタビュー企画「これからのカレーの話をしよう」
2回目は日本のインドと言われる東京・高円寺にお店を構える
「かりい食堂」の増川草介さんにお話を伺いました。
「渋谷系とカレーは似ている」と私が言い出したとき、
誰よりも強く頷いてくれた増川さん。
DJ出身で、90年代渋谷系カルチャーにも詳しい増川さんは、
実はカレー界の巨匠・渡辺玲氏のもとで修行を積まれており
ルーツはゴリゴリの現地主義。
ふたつの側面から、カレーと渋谷系の関係性について深掘りしてまいります。
元・渋谷系DJのカレー屋さん
かりぃー
増川さんはどうしてカレーにはまったんですか?
増川
カレーは16年ぐらい前なんですけど
かりぃー
はい
増川
その当時に(と、言いながらフリッパーズ・ギター『恋とマシンガン』をかける)
かりぃー
わー笑。もうベタすぎて最高ですね。
増川
はははは
かりぃー
めちゃめちゃいいDJ!(増川さんの出してくれたカレーを食べながら)そしてめっちゃ美味しいです!!
増川
ありがとうございます。かりぃーさんの新曲(『パンが無ければナンを食べればいいじゃないのよ』)も素晴らしかったんで。
かりぃー
本当ですか?
増川
聴きました。いい曲ですね。
かりぃー
なんかこんなに渋谷系渋谷系言い過ぎてると、ほら、渋谷系の人って、これは渋谷系だこれは渋谷系じゃないって言って怖いじゃないですか?だからお前ふざけんなよって言われると思って、ちょっと戦々恐々としてるんですよね(笑)。
増川
ああ、そうなんですか?全然全然。
かりぃー
あ、ごめんなさいね、話の腰を折ってしまったんですけど、増川さんがまずなんでカレーにハマっていたかが聞きたいのと、あと自分はカレーと渋谷系すごい似てるなって思うけど、なんで増川さんはカレーと渋谷系そうだねってあんなに言ってくれるのか、なんか、あんまりこう自分の主観を交えずに聴いてみたいなあっていうふたつがありますかね。
増川
ああ、なるほど。あの、じゃあ普通に話しちゃっていいですか?
かりぃー
どうぞどうぞ
増川
まずカレーにはまったきっかけは、ずっと音楽は好きだったんですよ。でそれこそ、渋谷系のDJやったりとか、そういうのをやってたんです。
かりぃー
うん、うん
増川
なんで、あのときってこうなんでしょうね、おしゃれ文化っていうか?
かりぃー
うんうんうん
増川
レコードばっか買ってて、贅沢に食べるものなんて 大学生の頃あんまりなかったんですけど
かりぃー
なるほどね。食費をレコードに注ぎこんだりして
増川
そうです、そうです!
かりぃー
なるほど。同じような人種だからよくわかります(笑)
増川
でもたまに友達とかと食べにいくのは好きだったんで、ラーメンかカレーかで結構友達と食べ歩いたりしてたんですけど、町田にリッチなカレー「アサノ」っていうのがあるんですよ。
かりぃー
へえー、はじめて聞いた!
増川
町田のね、カタカナで書いて「アサノ」って言って。そこはおじいちゃんがやってるカレー屋さんで、食べに行ったら美味しくて。今思えばスパイスカレー的というか、スパイスでつくったカレー?なんですけど、その前まではカレーって言うとジャワカレーとかコク旨とかあるじゃないですか。ああいうようなカレールーを使ったカレーばっかり食べてたんですけど、ああこういうカレーの世界があるんだと思ったんですよね。大学三年生とか四年生の頃だから、もう20数年前?
かりぃー
西暦でいうと何年くらいですか?
増川
1998年とか99年とかですかね。
dancyuの南インドカレー特集
増川
それでカレーって面白いなって思って食べ歩くようになって、2006年にあの『dancyu』って雑誌があって
かりぃー
ありますね
増川
あれに「ビールとカレー」特集があったんですよ。夏に。それで、料理好きだし、前からスパイスでカレー作りたいなと言う思いはあったので、ちょっと試しにやってみようかな、トライしてみようかなと思って。で、妻と一緒にスパイス屋さん行って。こんなちっちゃい袋のカルダモンとかシナモンとかクローブとかコリアンダーパウダーとか、まあだいたい一通りのものを揃えて、であのdancyuの南インドのチキンカレーっていうのをつくりました。
かりぃー
えー?その当時で南インドのチキンカレーていう感じで出してたんだdancyu?最先端ですね。
増川
ね。すごい特集だったんですけど。ただメインはあくまでビールなんですけどね。
かりぃー
ああ、ビールに合うのはなんかこんな珍しいのがあるよってことで
増川
そうビール特集がばーってあって、で雑誌の後ろの方に南インドのチキンカレーっていうのがすごい美味しそうなビジュアルで載ってて、それでつくったんですね。そしたらそれがすごい僕的にも初めて食べるような味だったし、妻にも好評だったんで、これ面白いなと
かりぃー
うんうんうんうん
増川
でね、昔からねカレー好きだし、本格的に学んでみたいなと思って、で、そのレシピを良く見てみたら渡辺玲さんのレシピだったんですよ。
かりぃー
なるほど!そこからの渡辺玲さんの繋がりなんですね。
増川
それが2006年のとき?で、その先生のカレーのレシピで作って美味しかったんで、渡辺先生のことをちょっと調べたら隣の阿佐ヶ谷で月に一回料理教室やってるっていうのがあったんで、結構マニアックな料理教室だったんですけど行ったんです。公民館の調理室みたいなところでガス台とか、あの家庭科の授業の時に、各島ごとにあの水道とかガスコンロとかついている調理台があるじゃないですか?あれをこう30人ぐらいでシェアして、5人6チームみたいな。で結構ね、昼間の12時ぐらいから始まって食べれる頃には18時19時とか。五品も六品も出すので。
かりぃー
え?5、6時間やるってことですか?
増川
はいー
かりぃー
過酷ですね。
増川
まああのビリヤリの会とかになると時間かかるんでもう
かりぃー
確かに待ち時間がありますものね。
増川
食べ終わる頃には21時ぐらいになってる、そんな感じだったんですよ。それでまあ、だいぶマニアックな料理教室に三年ぐらい通って、そこで自分なりに南インド料理の基礎を掴んだんです。で、僕もまあ変わった人間だったんでこんな美味しいものを僕と妻だけ食べてるのも勿体無いなって思ったんですよ。で、会社に持ってってみんなに食べさせて、楽しいなと思って。
かりぃー
うんうんうんうん
仮居(かりい)食堂誕生
増川
でまあ、2006年ぐらいからずっと南インド料理を中心につくるようになって、2008年とか2010年ぐらいには都内のライブハウスとかで出してましたね。そのときにはもう既に仮居(かりい)食堂って名前でやってて、はい。
かりぃー
それ、DJの活動と並行してみたいな感じでやってたんですかね?
増川
あ、そうですね。だからクラブとかに行ってカレー出してると、「あれ、今日は?」みたいな。 いや今日は音楽をかけるんじゃなくてカレーかけるんだよって(笑)
かりぃー
かけるんだよってそういうことね(笑)でもなんかその美味しかったものを、人に、こんなものを自分だけがこうなんか独占しているのは良くなくて、みんなに広めたいっていうのがもうDJ的発想じゃないですか。
増川
かもしれないですねー。ああ、だからいいレコードを見つけたら、それを次のパーティーとかで絶対かけたいとか、やっぱベースがDJなんでそうですね。なのでいろいろと友達とか会社の後輩とか家に連れてきて五品とか六品とか作ってホームパーティーみたいなのして、それが好評だったんでなかなかいいなと思って。
かりぃー
ホームパーティーってことは増川さんの家にみなさん呼んでってかんじだったんですか?
増川
僕のうちに南インド料理を取り揃えて、みんなで食べるみたいな。
かりぃー
いいですね〜
旧ヤム邸の衝撃
増川
はい、もう本当にでも渡辺先生の影響ですかね。渡辺先生は現地主義っていうかインド流こそが本質だという感じがあったので、僕も結構昔ガチだったんですよ。で、そうこうしているうちに、あのいつだったかな2014年か2015年くらいに大阪に旅行に行きまして、まだスパイスカレーってそこまで流行ってない、出始めるぐらいの頃だと思うんですけど、中之島のあの旧ヤム邸行ったんですよ、それですごいびっくりして。カレーってこんな自由でいいんだ?と思って
かりぃー
結構カレー極めてるはずなのに、ヤム邸行ってびっくりしたんですね?
増川
びっくりしましたねー。だってずっと現地バリバリ主義で、それこそ南インドの旅行に行って現地のカレーを勉強したりとかして、現地の味をリスペクトして、 なるべく現地に近い味を出すことが僕のカレーの修行だったんですけど、旧ヤム邸の食べて、びびって!(笑)なんて自由なんだ!!と思って。
かりぃー
確かに、桜でんぶとかはいってるときあるし、もう何料理かわかんないですもんね?
増川
もうすごいじゃないですか?独創性が。で、それからやっぱり変わりましたね。その頃このお店のある場所が昔「燕おこわ」っていう友人がやってるベトナム料理屋だったんですけど、女性がやってて子育てもあって土日休みだったんですよ。それでなんか勿体ないねって話があって、じゃあ、あの間借りでカレーやってみようかなんて思って、月に一回やり始めたのが六年くらい前。でその時はもう今とほとんどスタイル変わらないんですけど、毎回違うカレーを出してってことを続けてましたね。
かりぃー
じゃあ2014年、2015年くらいから始まって?
増川
そう、カレー人生は2006年から始まっているけれども、この場所を間借りでやるようになったのは2016ぐらいですね。
かりぃー
なるほど。いや、なんかその旧ヤム邸にショックを受けてはじめたって話めちゃめちゃ面白いですね。
増川
そうですか
かりぃー
いや、なんかやっぱりどっちかによるじゃないですか?スパイスカレーか現地系かという。スパイスカレーに興味を持つ方はスパイスカレーを深めていかれるし、現地系が入り口って言うと現地にこだわるようになっていく方が多いんじゃないかなと思うんですよね。でも増川さんの場合は二つの薫陶を受けて、なんか、だからすごい客観性があるんじゃないかなって思います。
増川
まああの僕のカレーのつくりかたは、チキンカレーとか変わったカレーにみえますけど、やってることは意外とオーソドックスで、特別な隠し味とかインド料理にはないようなテクニックを使ったりもしてなくて、結構愚直にスパイスを使ったカレーをつくってるとそうなるというかんじなんですよね。
強烈でインパクトのあるカレーを求めて
かりぃー
スパイス量が普通より多いってことはないですかね?
増川
まあ、そうですね。
かりぃー
そこはすごい個性としてありますよね。
増川
そうですね。スパイシーなのが好きなんですよね。東京のカレー屋さんで、渡辺先生の修行したお店が「アジャンタ」なんですけど
かりぃー
あ、渡辺先生ってルーツがアジャンタなんだ?
増川
そうです
かりぃー
へえ〜!!ありがとうございます。いろいろつながりました。
増川
それで僕もアジャンタに行くようになって、でアジャンタのマトンカレーとかすっごい強烈なんですよ。
かりぃー
わかりますわかります
増川
で、すっげえなと思って。こういうカレー作りたいなとかいうのがあったり、あとはほかには旧ヤム邸のはなしもしたけど、あとは原宿に伝説のカレー屋さんがあって
かりぃー
あれですか、キーマカレーのお店の?
増川
はい、あの「GHEE(ギー)」っていうね。赤出川さんの。長いこと千駄ヶ谷のほうでGHEEっていうカレー屋さんやってたんですけど、そこを一旦閉めて、神楽坂のほうに、なんていったらいいかなあ、雇われシェフみたいなかたちでカレー出してたんですよ。 で、その赤出川さんのビーフカレーがまた鮮烈で、チリとかバチバチのかんじで、こういうインパクトあるの好きだなあと思って。
かりぃー
うんうん
増川
あとは、そうですね、14年も前になりますけど、僕がカレーはまりはじめだった頃に南インドの旅行に行って、基本的にあっちはミールスとかなんでサラサラと食べれる系のカレーが多かったんですけど、なんか「ザムザム」っていう、見た目は小綺麗なあのカフェって言っても過言ではないようなおしゃれなカレー屋さんがなぜか南インドにあって。それまでは泊まってる先のペンションみたいなところのお母さんがつくってくれる料理を食べて結構家庭的な味が多かったんですけど、そのザムザムのカレーはなかなかぶっ飛んでて、マトンカレー食べたんですけど、もう本当にスパイスのパワーに溢れてて。それがすごい僕衝撃で。
かりぃー
おおー
増川
だから旧ヤム邸でもこんなにカレーって自由でいいんだって衝撃を受けたし、アジャンタでこんなにスパイスバキバキでいいのっていうのもあるし、ザムザムではちょっと大袈裟だけどスパイスのパワーに覚醒したっていうか? これはやばいと思って
かりぃー
たしかに増川さんのツイート見てると瞳孔開いてるなってかんじがします
増川
はははは
かりぃー
バチバチしてるんですよ(笑)
増川
本当に、ちょっとね、僕、別に麻薬とかやったことないですけど。
かりぃー
いやでも合法ドラッグだって言ってるのはすごいわかる。
増川
そうそうそう。 食べてね、くらくらするような、そんなカレーだったんですよ、はい。
かりぃー
ザムザムがね?
増川
ザムザムが、、、元々自分が習った渡辺先生は南インドのレインなスパイス使いっていうんですかね?そんなになんか僕みたいにブラウンカルダモンをたくさん使ったりとか、あとはバチバチにカルダモンを入れたりとか、そんな風にはしない。本当にあの優しくてそうですね。
かりぃー
割とそうですよね。基本の南インドって。イナダシュンスケさんのワークショップとか行きましたけど、 本当に各スパイス1g程度ですよね。
増川
そうですよね。
かりぃー
優しいものなんだなっていう印象が強いので、なんか南インドでいろいろ学んだっていうのを聞くと、 一口に南インドって言ってもいろいろあるんだなと。
増川
はははは
かりぃー
行ったことがないから、実際どうなっているのかという興味はあります。
増川
そうですね、僕はいろんなカレーがあっていいと思ってるし、好みだなと思ってるんですけど、僕の好みはそのザムザムで食べたような、すっごいスパイシーで元気がもらえるようなカレーが好きだし、旧ヤム邸の自由みたいなのも好きなので、それで結構創作カレーとかも作るようになってきます。そこが大阪スパイスカレーとかと似てるのかなって思うところもあるんですけど
かりぃー
創作的なところがね
増川
本当に僕はね、昔は南インドバリバリだったんで、カレーでお酒を使うなんて言語同断だなんて思ってたんですけど、あーこれ明日から提供するマトンカレーは赤ワイン入れたりとか今はもう何でもありみたいな。
サンプリングと洋楽志向
かりぃー
なるほどね。 なんかちょっと飛躍しちゃうかもしれないですけども、そういうなんか色々な種類のカレーを等価にサンプリング的に並べるっていう感覚が多分渋谷系なんだと思うんですよ。
増川
そうそう、僕もカレーは渋谷系だなと思うのは、90年代カルチャーに3つぐらいキーワードがあるかなと思ってて、一つがサンプリング。もう一つが、まあそれにつながりますけど、サンプリングと何を持ってくるかっていう元ネタ。あとそれをどういうふうにやって組み合わせてという組み合わせ方?まあ、例えば僕だったらDJだったんで、曲と曲の並びだったり。あとはフリッパーズギターとか初期の頃の小沢健二とかもそうですけど、いろんな元ネタを持ってきて、自分の曲にするとか、そういう編集感覚があるじゃないですか。
かりぃー
うんうん
増川
僕のカレーのつくりかたもそうで、ベースは渡辺玲さんの現地主義なんですけど、やっぱり旧ヤム邸の自由さだとか、赤出川さんの魔力のようなビシバシスパイスの効いたカレーだとか、そういう影響をうけながらこういうカレーになったというかんじ。
かりぃー
なるほど
増川
これイナダシュンスケさんが言ってたんでしたっけね、ラーメンだと国内のラーメン屋さんとか見るけど、カレーだとインドとかパキスタンとかバングラデシュとか見るっていう。洋楽志向じゃないけど。
かりぃー
そうそう!洋楽志向!!!!
増川
そういうのが僕にもあって。で、そんなめちゃめちゃ旅行に行く方じゃないんですけど、結構都内のいろんな国のいろんな料理食べ歩くのが好きで、それで北インドだったらパンジャーブ地方の料理だったり、南インドだったらチェンナイのほうのラッサムとかサンバルだったりみたいなものをこう元ネタにしながらDJ的というか渋谷系的っていうか、そういう感覚でつくってますね。だから「よく思いつくね!」って言われることもあって、3年間新しいカレー作り続けてるんですけど
かりぃー
すごーーーい!!!毎月?
増川
ああ、毎月です。それも結局、なんだろうなあ、渋谷系的というか、、、例えばこの曲のこのイントロのこのコードをサビに持ってきて、こっちの曲のこのベースラインのかんじをちょっとアレンジして加えてとか、いろいろと食べ歩きするなかで元ネタをひろってきていますね。
かりぃー
なるほど、コードを読んでるんだ(笑)
増川
はははは
かりぃー
サンプリングしに行ってるんですね?食べに行って?
増川
そーそーそー
かりぃー
面白いっすね
増川
妻には怒られ続けてるんですけれど
かりぃー
なんで?なんで?
増川
だって、ふらふらふらふらと食べにばっか行ってて(笑)なんかあの、店の経費の計算とか、なかなかしないで、食べ歩きばっかして、なにやってんだと。僕としては、レコード屋の感覚に近いんですよ。カレー屋に行くっていうのは。
かりぃー
それでご自身でやってらっしゃるからね。いや、我々食べる側としては分析はするけど、手も動かしてらっしゃる増川さんは本当にプレーヤー感覚ですよね。
増川
うん
バンドブームのカウンターとしての渋谷系
かりぃー
そう、「カレーと渋谷系は似ている」って言ったはいいものの、なんで渋谷系って感じるのかなって。で、増川さんから聞いたことも受けつつおもったことを言うんですけど、なんかこのカレーのムーブメントをバンドブームになぞらえて捉える見方ってあるじゃないですか?例えばカレー細胞さんの本にも書かれているんだけど、80年代終わりぐらいの、渋谷系が来る前の?でもそれって、仮説ですよ?仮説ですけど、大阪スパイスカレーの「俺の考えたカレーを食えよ」という、あの独自性みたいなもののほうが的を得てるんじゃないかなと。で、フリッパーズ・ギターって、そういうバンドブームに対するカウンターじゃないですか?どぎついメイクしているわけでもなく、普段着で、ふつうに声張らないで歌ってる普通さっていうものが逆にパンクだったってことですよね。
増川
あの当時はね
かりぃー
で、この出し方っていうのは、もしかしたら大阪スパイスカレーに対するカウンターなんじゃないかなってちょっと思ってて
増川
ああ〜
かりぃー
だからみんな、「ネパール風〜」とか「南インド風〜」みたいに国の名前を主張したがるのは、そういう俺が考えたカレーとかではなく、なんかもうちょっと視野広くやってるよということをみんなやろうとして、広がりが生まれてるんじゃないかなと。
増川
なるほど。90年代カルチャー?音楽でいったらハードコアとかパンクとかグラムロックとかのカウンターとしてネオアコがきて、その影響をうけてフリッパーズ・ギターが現れて
かりぃー
スタンスが似ていますよね、やっぱりね。
増川
そうですね
かりぃー
これもちょっとまた話が飛ぶかもしれないですけど、カレーで音楽っていうと筋肉少女帯の「日本印度化計画」のイメージが強いとおもうんです。「辛いだろう?食えよ」みたいな。あの力強いロックみたいなものをみんなイメージするし、カレーと音楽のフェスよくやっているけれど、やっぱ呼ばれるアーティストがそこに近いのかなとおもって。こないだ見たのがDragon AshとサンボマスターとBiSHが出てるやつなんですけれど、聞かせ方的にやはり熱量押しの方向性なんですよね。いいとか悪いとかではないですよ?でもそれっていまのカレーシーンとはちょっと乖離がある気がして、もっとみんな普段着じゃない?っていうことを思ったんです。なんかお店の雰囲気とかも、まあ増川さんのスタイルは象徴的だとおもうけど、ボーダー着てる方はすごく多いし、内装も木目調で北欧っぽかったりとか、あんまりこうロック臭がしないんですよね。
増川
それはそうかもしれないですね。なんでだろう?カレー屋なんで、すごい怪しい、インドインドした店があってもいいとおもうんですけど、僕の店も含めカフェっぽいお店多いですよね。
かりぃー
そうそうそうそう、カフェっぽいんですよ
増川
小洒落たかんじとかね。これってね、これインタビューに使えるか使えないかわかんないんですけど
かりぃー
いいんですよ、なんでも言ってください
増川
あのー大学の友達とね、結構カルチャーとか好きなやつだったんですけど、大学を卒業したとき以来連絡をとっていなかったんですよ。そしたら急に僕がカレー屋をはじめたんで、びっくりして来てくれたんですけど、なんでまたカレー屋なの?と思ったって言われたんですね。サラリーマンじゃないにしても、大学のときは渋谷系やってたし、やるとしてもカフェとか、そっち系だとおもったって言うんですよね。
かりぃー
なるほど、増川さんのセンスだったらカフェとかそっちにいくと。でも、そのリアクション、客観的に冷静になって考えてみればそうだよねってわかるんですけど、我々最近のカレー文化にどっぷりの人間からするとカフェでカレー?当たり前じゃんって言ってしまいそうですね(笑)
増川
ですよね
「渋谷系と言われたくない」と言う感覚
かりぃー
ね、それはどうしてこういうことになってるんだろって一度ちゃんと分析してみたいなって思うんだけど、あのー自分は渋谷系ではないと言ってるアーティストほどカレーにハマってるなと思ってて。
増川
はははは
かりぃー
(サニーディ・サービスの)曽我部さんが代表だとおもうんですけど、オリジナル・ラブの田島貴男さんがすごいカレーにはまってるとかいう話もあったり、最近仲良くさせていただいているんですけどL⇔Rの黒沢さんもすごいカレー作るんですよね、ご自宅にお邪魔してカレーご馳走になったりして。で、そこで気づいたんですけど、渋谷系って言われると「え?」っていう否定的な反応があったりするけど、同じ感じでスパイスカレーと言われると「え?」て言うみたいな(笑)。言われたくない的な。良くも悪くもいろんなニュアンスを含む言葉だから、捉えようによってはネガティブに聞こえるひともいるとは思うんですけれど。でも傾向として、あの時代に渋谷系といわれていたひとの多くがカレーに行っているなというのを感じます。
増川
そうですね。90年代に音楽好きだったひとが2000年代になってカフェを開くみたいな流れはあったとおもうんですけど、いまはどっちかというとカフェよりカレー屋を開いているようなイメージはありますね。不思議だな、なんでだろう?
かりぃー
なんか問題定義した割には、なんでかは自分もよくわからないんですけどね(笑)。でもあるんですよ、ほんとに。世田谷区とかね、めちゃくちゃおしゃれなボサノバが流れてそうなカレー屋が。
増川
そうなんですか〜
かりぃー
で、以前増川さんたちが(大江カレーさん、月曜スリランカカレーさん)、高円寺のカレー屋さん三店舗でインタビュー受けてる記事がありましたよね。で、「皆さんはスパイスカレーって言われることありますか?」という質問に対して「あ、、、え〜、、、うーん」というリアクションだったじゃないですか。
増川
(笑)
かりぃー
それ読んでわたしは、渋谷系アーティストが渋谷系って言われたときの反応と一緒だなって思ったんです(笑)
増川
そうですね〜。あのときは、スパイスカレーって言われるんだけど、自分から言っちゃうのは恥ずかしいっていうやつです。
かりぃー
やっぱ渋谷系と一緒ですね(笑)
増川
いまでこそ、好きな音楽は渋谷系ですって言えるんですけど、あの当時それを言っちゃうのはすごくチャラいというか
かりぃー
わかる!わかる!
増川
あのーブームに乗ってる、みたいな?要は誤解を招きやすい言葉なんで。スパイスカレーってひとから言われる分にはいいんですけど、僕はもっと洋楽志向というか、まあアレンジで味噌使ったり酒粕使ったりっていうアクロバティックなカレーありますけど、あくまでベースはインドなんで。なんかムーブメントとしてスパイスカレーのジャンルのなかに入ってしまっているおじさんと思われてしまうと、ちょっと、、、と思いますね。
かりぃー
うんうんうん
増川
当時オリジナル・ラブの田島さんも「僕は渋谷系じゃない」って言ってたけど、そこでまとめられちゃうとちょっと違うのかなと。
かりぃー
わかる!!、、、だから自分もやや反省があるんですが、渋谷系イコールスパイスカレーって言ってしまうと少し語弊があるのかなと。わけたほうがいいのかもともおもうんです、ほんとはね。もしかしたら第一世代のスパイスカレーのカウンターとして、いまの国を名乗るタイプのカレーがあるのではないかと。でもこれを一言であらわそうとするのはとても難しい。
増川
難しいねえ
かりぃー
どっちもスパイスカレーじゃんって言われちゃうかもしれないけど、でもちょっと違うと思うんではないかと思うんです。
増川
バンドブームからの渋谷系と状況似てるのかもしれないですね。今日も僕の友人と堕天使かっきーさんが新宿のゴールデン街でカレーをつくるって言うんだけど、かっきーさんのカレーいつもぶっ飛んだものをつくってて今日もコオロギの出汁を使うって言って
かりぃー
最先端すぎる(笑)
増川
面白いとはおもうけど、そういうのは僕はやらないかなあと。
かりぃー
ああ、だから今の例えで言うとかっきーさんがバンドブームの頂点にいるのではないかと。
増川
ああ、だと思う(笑)あと話しながらおもったのは、これは小山田圭吾さんが言ってたとことなんですけど「音楽の作り手というよりは、優秀なリスナーである」という意識なんだとおもうんです。なので僕もただやみくもにカレーをつくるんじゃなくて、カレーのよき食べ手でありたいとおもって。
かりぃー
なんか話しててだんだんクリアーになってきましたね(笑)もやが晴れてきたような。こういうの言っていいのかな?ってずっと思ってたんです。
増川
僕は逆にかりぃーさんが「渋谷系とスパイスカレーは似ている」と言ってくれて、言っちゃっていいんだなって思いましたよ。